野口 里佳

光る海

2021、ビデオ(サイレント)(18分)

©︎ Noguchi Rika

CURATOR’S NOTE

水平線が強調された構図において、人や船が遠巻きに見える。全32のシーンは、沖縄のとある場所の波打ち際の様子を繋げたものだ。映像に少しでも集中すれば、少しおかしなことにすぐに気づくだろう。さざ波が少し早いこと、あるいは反対に、ぬかるみに足を取られているにしては、浅瀬を歩く人々の足取りが重たすぎることに。倍速やスローモーションが、ショット内の小さな対象に控え目な異化効果を生み出し、わたしたちの注意をそれら小さな対象へと向かわせる。わたしたちの目はそれら小さな事物に徐々に慣れていき、もっと些細でふしぎな出来事–––釣竿に反射する光、画面を横切る鳥、不意に踵を返す船やヨット、浅瀬を歩きながら語らう二人、水面から不意に頭を出す人、雲の動きと地上の人の動きの対比など–––を見つけ始めるだろう。ドラマのきざしがそこにある。このあと、人は、船は、あるいは雲はどこに行くのか、そんな疑問が湧き上がるのも束の間、画面はフェードアウトし、次のショットへと切り替わる。もしもその小さな物語の行く末を知っているものがあるとすれば、画面に登場し続ける、これら小さな出来事の舞台である水平線だけだ。こんなふうにわたしたちの注意は細部を経て、水平線へと至り、やがて想像力は映像のフレームを超えていくだろう。なぜならば、水平線は画面内の構図を規定すると同時に、そのフレームを横切り、こちらとあちらを分けることで、もっと遠くの世界があることをも示唆するからだ。(M.T.)

CREDITS

謝辞

島袋銀河

Courtesy of the Artist and Taka Ishii Gallery

PROFILE

撮影:島袋銀河

野口 里佳(のぐち・りか)

1971年、埼玉県生まれ。沖縄県を拠点に制作活動を行っている。「見えないけれどそこにあるもの」を可視化する手段として、野口は写真というメディアを用いてきた。彼女の鋭い感性はモチーフ選択や視点の特異性に看取できるが、もっとも特筆すべき点は、対象を包み込むかのような柔らかな光の捉え方にある。近年は、昆虫や植物などに焦点を当てた映像作品の制作にも取り組んでいる。

近年の主な個展に、「海底」(タカ・イシイギャラリー、東京、2017)、「To the Night Planet」(ロック・ギャラリー、ベルリン、2016)、「光は未来に届く」(IZU PHOTO MUSEUM、静岡、2011–12)グループ展に、「瞬く皮膚、死から発光する生」(足利市立美術館、栃木、2020)、「ふたつのまどか」(DIC川村記念美術館、千葉、2020)、「Reborn-Art Festival 2019」(宮城、2019)、第21回シドニー・ビエンナーレ「SUPERPOSITION: Art of Equilibrium and Engagement」(シドニー、オーストラリア、2018)など。