ABOUT
CONCEPT
距離をめぐる11の物語
私たちは今、友人や恋人、家族、偶然知り合った人、あるいは歴史上の人物、はたまた人以外の存在との間に、どのような関係を築き、そこにいかなる距離を感じているでしょう?
かつて、19世紀に旅客のための蒸気機関車が誕生して、人間を瞬く間に遠くまで運んでくれるようになった時、距離をめぐる人々の感覚は大きく変化しました。続く自動車や飛行機の発明によりますます加速したスピードの革命は、物理的な距離を時間に置き換えて世界を認識する新たな感覚を私たちの中に生み出してきたともいわれます。しかし2020年、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、産業革命以来続いてきた時間と距離との蜜月を突如狂わせてしまいました。私たちは今なお、物理的な移動を制限された生活下にあります。だからこそ、これまでさほど気に留めることのなかった遠近の距離、物理的あるいは心理的距離の感覚に対して、よりはっきりと意識を向けるようになっているのではないでしょうか。しかし、離れている状態とはそもそもネガティヴなことなのでしょうか。200年近くをかけて私たちの中に染みついた距離の感覚に、別の尺度がありうることに気づかされた今、「距離」が生む肯定的側面を含めて理解するために、私たちは物理的な単位から離れてどのような言葉に置き換え/翻訳して、考えてみることができるでしょう?
この展覧会で紹介する11人のアーティストによる作品は、人と人、ある土地と人、歴史上の時点と現在、物理的な場所とヴァーチャルな空間など、さまざまな形で「距離」、あるいはそこで発生する関係性について言及しています。
荒木悠、潘逸舟、飯山由貴、小泉明郎、毛利悠子、野口里佳、奥村雄樹、佐藤雅晴、さわひらき、柳井信乃、吉田真也。
11名によるそれぞれの作品は、物理的距離を直接的に扱うものばかりではありませんが、産業革命期以来の時代の転換点を生きているのかもしれない私たちに、狂った時計が再び動き出すような発見をもたらしてくれるのです。
木村絵理子、近藤健一
桝田倫広、野村しのぶ
OUTLINE
ごあいさつ
このたび、国際交流基金では、withコロナ時代における新たな芸術交流事業の一つとして、オンライン企画展「11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)」を開催いたします。昨年来、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、人や物の移動は難しく、当基金が世界各地で計画していた多くの国際文化交流事業は中止を余儀なくされました。その一方で、新たなコミュニケーションの場としてのオンライン空間が模索され、誰もが周囲の世界との「距離」を捉え直そうとしています。こうした中で、私たちは改めてどのような形で世界との繋がりを築いていけるかを考え、本展を企画しました。国際交流基金にとって、これが初のオンライン限定の現代美術展となります。
本展では「距離を翻訳すること」をテーマとしてコミッションした新作を中心に、11名の日本の現代美術家の作品を世界に紹介いたします。心理的あるいは物理的な距離を越えたり縮めたりすることは本来、簡単なことではありません。今日、距離は私たちが折り合っていかなければならないものとして立ち現れています。本展は、そうした距離に真摯に向き合って制作された作品を、日本から世界中のあらゆる場所にいる皆様にお届けするために制作されました。ぜひ、皆様がいらっしゃるそれぞれの場所で、本展をお楽しみいただければ幸いです。
最後になりましたが、この試みにご参加くださった作家の皆様をはじめ、本展の実施に向けてご尽力くださった関係者各位に心よりお礼申し上げます。
2021年3月
国際交流基金
事業名
【オンライン展覧会】
11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan
距離をめぐる11の物語:日本の現代美術
会期
2021年3月30日(火)~5月5日(水)
URL
https://11stories.jpf.go.jp
お問い合わせ
va@jpf.go.jp
参加作家
荒木悠
潘逸舟
飯山由貴
小泉明郎
毛利悠子
野口里佳
奥村雄樹
佐藤雅晴
さわひらき
柳井信乃
吉田真也
キュレーター
木村絵理子
近藤健一
桝田倫広
野村しのぶ
プロジェクトマネージャー
柴原聡子、戸田史子
翻訳
イーデン・コーキル
ウェブサイト&PR
石松豊
ディレクター(CINRA)
二木大介
アートディレクター&デザイナー(CINRA)
中島佑里恵
テクニカルディレクター(CINRA)
香西裕美
デベロッパー
中神大司
デベロッパー(cotolog)
柏木良介
海外PR(CINRA)
後藤美波、宮原朋之
記事編集(CINRA)
CURATORS

Photo: KATO Hajime
木村絵理子
横浜美術館・主任学芸員、ヨコハマトリエンナーレ2020企画統括。
主な展覧会に、“HANRAN: 20th-Century Japanese Photography”(ナショナル・ギャラリー・オブ・カナダ、オタワ、2019–2020)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009–2010)、「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」(2009)ほか。この他、横浜トリエンナーレ・キュレーター(2014、2017、 2020)、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011、釜山)など。

Photo: 御厨慎一郎 写真提供:森美術館
近藤健一
森美術館 シニア・キュレーター
主な展覧会に「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命」(2019)、「カタストロフと美術のちから展」(2018)、「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」(2014)、「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」(2010)、小泉明郎(2009)の個展、ビル・ヴィオラやゴードン・マッタ=クラークの映像作品上映プログラム(2015)など。2010年にはローマのサラ・ウノで若手日本人のビデオ・アート展を企画。2014~15年にはベルリン国立博物館群ハンブルガー・バーンホフ現代美術館客員研究員を務める。

桝田倫広
東京国立近代美術館・主任研究員
主な展覧会に「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)、「高松次郎ミステリーズ」(共同キュレーション、2014–2015)など。

Photo: 伊丹豪
野村しのぶ
東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター
主な展覧会に「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」(2019)、「単色のリズム 韓国の抽象」(2017)、「サイモン・フジワラ|ホワイトデー」(2016)、「ザハ・ハディド」(2014)、「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」(2014)、「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」(2010)、「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」(2009)、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」(2006)、「アートと話す/アートを話す」(2006)。外部の仕事に《都市のヴィジョンーObayashi Foundation Research Program》推薦選考委員、「シアスタ−・ゲイツ」(2019)、「会田誠展「GROUND NO PLAN」(2017)。